「主婦感覚」 |
陽光が軒下に差し込んでいた。
雨の降る様子は全く伺えない。
洗濯物は外に干せるなと思いながら、シリンダーグラスを食器棚から取り出し、
湯沸しポットから少量のお湯を注ぎ、それに水を足した微温湯で満たす。
それを立て続けに2杯飲み干す。
これで一日がスタートする。
シリンダーグラスをテーブルに置き、冷蔵庫から無塩トマトジュースを取り出し、
グラスに注ぎ、腰を掛けた。
一連の動作を観察していると、
我ながら、今や俺は主婦感覚で生きているなと熟熟感じた。
徐に朝刊に手を伸ばした時、
「今日は11時前には家を出るよ」 突然声が掛かった。
嫁からだった。
嫁の休日を忘れていた。
一人で家事をこなすとなれば11時出発は難しいが、
嫁の手伝いがあれば何とかなると思った。
しかしこの思考回路は最早自分が主婦だと認めているようなものだ。
思わず苦笑いをした。
午前中の事務所入りは久し振りだ。
空を見上げると大方は分厚い雲に覆われているが、
未だ雲間から強い陽光が照りつけている。
大倉山公園へと向かう。
この時間のスロジョギは初めてだ。
文化ホール脇では学生さんがチケットを配布していた。
しかし何の催しなのかは聞き逃してしまった。
取り敢えず、「後で貰うわ」と会釈をし、傍らを通り過ぎた。
以前はこの類には無関心だったが、これも主婦感覚となったからであろうか。
意外や意外、この時間に走っている人が多かったのには驚いた。
その中でも取り分けめちゃくちゃ速い小柄な女の人がいた。
後ろからスタスタスタと足音が聞こえたと思ったと同時にピューと抜かれ、
暫くすると、追い越された。
何度追い越されたのだろうか。
こちらが4周回っている間に恐らく10周以上は走っていたようだ。
途中彼女は向きを変え、正対した事もあった。
でも、しっかりと姿を捉えきれなかった。
どうも視力が落ちているようだ。
何時も通り、小一時間走り、同じルートで引き返したのだが、
学生さんの姿は既になかった。
チケットは貰う気だったので、残念だ。
しかし、同じ場所でおばさん達がチラシを配っていた。
会釈をし受け取った。
全く読めない。
文化ホールの正面玄関に差し掛かると、大きな立て看板が据えられ、
「老眼大学」 と太い・大きな文字で書かれていた。
メガネを外し、チラシを見ると老眼鏡のお話であった。
明日は工房見学が控えているのだが、お天気が心配である。
ラジオでは大雨の可能性があると言っていた。
その時ばかりは小雨であってほしい。
明日は室内干しとなるようだ。