「Blackbird Leys にて」 2 |
マルコムは偏頭痛に悩まされていた。
仕事も休みがちであった。
その所為か、夫婦喧嘩もよく遣り合っていた。
ユニスも居た堪れなかったのであろうか、
ある日彼女はマルコムのことを俺に話してくれた事があった。
マルコムの父は、警察のお世話になったくらいの暴れん坊で、町の嫌われ者だった。
彼とは何度か会ったことがあるが、俺には優しく接してくれた。
顔には数箇所の傷痕が残っており、悪役レスラーといったイカツイ風貌であったが、
笑った顔は妙に子供っぽかった印象が残っている。
当然家は貧しい。
彼はそこから這い上がりたく努力した。
生来、手先が器用で、勤勉家でもあった。
そして専門学校を卒業し、遂に電気工事技師となった。
間もなくユニスと巡り合い、結婚し、3人の父親となった。
しかし運命とは皮肉なものであるらしい。
ある日、不運にも工事中に高所から転落し、
頭を打ち、長い闘病生活を送ったが、後遺症が残った。
偏頭痛もそうだし、気にムラが生じやすくなったのもその所為だという。
Blackbird Leysは治安が悪く、物騒な地域だと言われていた。
ワーカースクラス(労働者階級)が住む町として蔑視されていたのである。
移民の人達も多く住んでいたようだが、概して人のよい連中であった。
この町に住んで、害を受けた事などは一度もなかったが、
品行が宜しくない事も数多く見かけられ、成る程と頷かされる事もしばしばあった。
公園は牧草地を想わせるほど広くて青々と草が茂っている。
そこでギターを弾き、歌を歌っていると、子供達が寄ってきたものだ。
俺の英語力からすると、子供達と遊ぶくらいが一番いい勉強になる。
只驚いたのは小学生くらいの子供がタバコを吸っているのである。
それも、一人や二人ではなく、結構な数だった。
当時は俺もタバコを吸っていたので、偶に貰いタバコをしたものだが、
俺からは勧めなかった。
その所為か、友達は減っていった。
男と女の関係、金銭問題、
そしてアルコール中毒といったお定まりの問題はこの地域には蔓延していた。
マルコムは気が優しく、面倒見のいい男だったので、
ややこしい問題がよく持ち込まれていた。
俺もよく分からんなりに、話の輪の中に入っていたのだが、
それはそれで、今もって不可解である。
まぁ、飲み仲間として遇してくれたのであろうか。
つづく