「瓜二つ」 |
「この顔、何処かで見た事あるよね」
「うん、確かに」
「ちょっとボールペン、貸して」
そう言いながら、婿殿が鼻の下に口髭を書き入れた。
あら不思議、ある人とそっくりさんの顔になってしまったではないか。
娘の住まいに嫁から頼まれた品物を届けに行った処、
湊川神社の西門前においしいパン屋さんがあるので、
パンをお昼代わりにしようと娘が言う。
しかし、俺はお昼にはパン食はしたくないと突っぱねたが、
奢ってやると言われたので、不承不承従う事にした。
孫の乗るバギーを押しながら、散歩代わりに、件のパン屋さんに出向いた。
日差しは穏やかだが、風があり、少し体感温度は低く感じるが、寒いというほどの事はない。
孫の鶏冠のように逆立った髪の毛が風にそよいでいる。
横断歩道の盲人用のピーピーと鳴る音が珍しく感じたのか、きょろきょろ辺りを見回している。
このあどけない孫の顔を見ているだけで、心が和む。
事務所へ行き、昼食となった。
コーヒーの準備をしている間に、娘は孫に離乳食を与えていた。
スプーンを口元に運んでやると、ぐにゅぐにゅと口を動かし、ごっくんと咽喉に入れている。
食事を済ませ、テーブルを片付けている時、
娘が 「神戸市の広報誌は来ている?」 と訊ねた。
「確か、昨日来ていた筈だ」 と返事をすると 「未だある?」 と訊く。
奥から出してくると、娘は数ページ開き、小さな写真を指差した。
手を膝の上に置いた新神戸市長が写っている。
娘は机の上のボールペンを摘み、件の写真の主の口元に口髭を書き加えた。
なな何と 「俺ではないか」
思わず笑ってしまった。
よく見ると、そりゃ全く違う。
でも、表情とか、髪型、そして身体つき等がよく似ている写真だ。
失礼ながら、今までは全く興味がなかった人だったが、
写真一枚で妙に親近感が湧きましたな。
歯医者さんから戻ってきた嫁に見せると、 「ほんまや!」 と大笑いしていた。
孫は何も分からず、相変わらずきょろきょろ辺りを見廻している。
春はもう近い。
以前講演会に参加した時に、その話しを聞いて身近に感じました。
ちなみに、高校は灘高…やはり遠い存在ですね