「ヘヤーカット始末」 |
櫛にたっぷりと水を含ませ、髪の毛を撫で付ける。
そして、長く伸びた耳元の毛を指で摘み、剃刀の刃を入れた。
その瞬間我に返ったが、時既に遅し。
前々から髪が伸び過ぎていると思っていたが、この寒さである。
下手をすると風邪を引くかもしれない。
そう思いながら、ずるずると今まで来たのだが、
今朝洗面台の鏡に向かった時、急に髪の毛を切ろうと決心した。
それも後先を考えずに遣ってしまったのだから、
魔が差したとしか考えられない。
髪の毛を切ろうとすると、下着に髪の毛が付くので、上半身は裸で遣る。
だから寒い。
それに洗面台の下には一杯髪の毛が落ちる。
また、その後始末に結構な時間が掛かるので、下準備が必要なのだが、
今朝はそれをも忘れ、闇雲に遣ってしまった。
ひとたび始めると後戻りが出来ない。
それにこの寒さである。
風呂に湯を張り、浴室暖房もしておかねばならない。
それを全部忘れていたのである。
特に頭の後ろ側を整えるのは、結構きつい。
若い時のような腕の柔軟性がなくなっているからだ。
それでもどうにかこうにかして、取り敢えず無事にカットも終えた。
そして洗髪し、湯船に浸かり、冷えた体を温め、何とか風邪を引かずに済んだようだ。
それに、散髪の仕上がりも上々の様である。
それは田井君も兄ちゃんも笑わなかったからである。
何時もは用意周到に遣るのだが、此の頃は如何もいかん。
気が短くなっているようだ。
しかし今は髪の毛が短くなり、頭が軽くなったような気がして、頗るご機嫌である。
嫁は俺の髪型に気付くであろうか。
恐らく気付きはしまい。
お互い様である。