「底なし沼」 3 |
「ギターをギターとしてしか考えて来なかった」
「そしてこの壁を乗り越える、或いはそこを避けて通る」
爺さんが言い残した言葉を反芻するが、まるでその意を捉えることが出来ない。
これでは禅問答を仕掛けられ、答えに窮し、小馬鹿にされている小坊主のようなものだ。
そんな気分に陥り、次第に腹立たしくなってきた。
俺は気が短い。
だからこういう遠廻しな表現が大嫌いだ。
足を組み、ソファーに深々と沈み込むように座り、腕組みをしながら、目を瞑り、
憮然と爺さんが戻るのを待った。
「おっ、ふて腐れとんのか、、、」
ニヤニヤ笑いながら、爺さんは急須と湯呑茶碗を載せたトレーをテーブルに置いた。
「まぁ、そんなにつんけんせんと、お茶でも飲み」 と俺にお茶を注いでくれた。
「きんつばはなぁ、コーヒーと一緒に食べるのもええが、
その後にこんな渋茶と食べるのもええもんやで」
俺のことなどはお構いなしに、悠然ときんつばを頬張っている。
「ギターをギターとしてとはどういう意味ですか?」
居住まいを正し、両膝の上に手を載せ爺さんを正視した。
「俺はギターを作っているつもりですし、いつも真剣勝負で遣ってきたという自負もあります」
「だから、ギターとしてしかという言葉にはチョッと引っ掛かりを感じるんです」
俺は俺のストレートな気持ちを爺さんにぶつけた。
「ほぉ、直球勝負やな」
そう言いながら、爺さんは顔を小刻みに上下させ、口元をすぼめた。
「よっしゃ、それやったら一緒に考えてみよか」
そう言いながら、椅子から立ち上がり、後ろ手に腕を組み、のそのそと熊歩きを始めた。
時折左手を顎に当てながら、首を傾げ、思案を纏めているようだ。
「ところで、あんたの思うギターとはどの様なもんや?」
「それを言葉で説明してくれへんか?」
振り向きざまに直球が投げ返された。
「アッ!」 と驚くど真ん中のストライクであったが、不意のことで、手も足も出ない。
「思い付いた事でええんや」
「例のブレイン・ストームちゅうやっちゃ」
爺さんが助け舟を出してくれた。