「彼岸の中日」 |
行き掛けの道が何時もに増して混んでいる。
そう言えば今日はお彼岸の中日だった。
わざわざ脇道へ迂回しなければならない程の急ぐ用事がある訳ではない。
流れに任せる事にしたのだが、墓園の出入り口に誘導係が配置されており、
意外に早く混雑から抜け出す事が出来た。
空は厚い雲に覆われ、雨が今にも降りだしそうな気配だ。
ぼんやりと窓の外を眺めている。
歩道を歩く人は皆傘をさしている。
行き交う車のワイパーの動きも早い。
涙が止まらない。
事務所に着くや否や机の電話が鳴り響いた。
「今着いたんか?」
「そうや」
「何回も電話したけど、どないしとったんや?」
どうも電話を携帯に切り替えるのを忘れていたようだ。
一瞬不吉な予感がした。
滅多に電話など掛かって来ないW君からであったからだ。
只,件の主とは昨年の秋に話をした。
お互いの親友であるT君の事であった。
予感は的中した。
T君は昨夜失くなったそうだ。
昨年9月にT君は訪れた。
彼の顔は変形しており、声は掠れ、弱々しかった。
その姿は痛々しいくらいに窶れていた。
今から思うと、お別れを言いに来たとしか思えない。
そう言えばその時に11月に再入院するという話を聞いた。
「物凄く静かな病院やねん」と彼は柔かに言った。
その話を聞いた瞬間、「ホスピスか?」の言葉が出掛かったが、飲み込んだ。
T君はそこで息を引き取ったらしい。
今年もT君から年賀状が来ていたので、安心していた。
しかし一度は見舞いに顔を出して遣りたかった。
今更何を言っても仕方がないが、それが悔やまれる。
彼の一生は病との戦いであった。
しかし彼は天性の楽天家でもあった。
彼の口から病に対する愚痴を聞いたことはない。
静かに戦い続けていた。
全てを受け入れ、柔かに対峙していた。
そんな彼を俺は好きだった。
またラジコンの話をしよう、、、
冥福を祈る。
だから今は泣けるだけ泣いてあげてください。
ご冥福をお祈りします。