「市中引き回しの刑」 |
正月早々嫁が溝掃除をすると言い出した。
土砂が堆積し、大雨の際に溢れ出すかもしれないと心配らしい。
俺は知らぬ振りを決め込み、箱根駅伝をテレビ観戦していた。
コーヒーを飲み、チョコレートを口に入れた時、不機嫌そうな顔付きでテーブルに戻って来た。
「今第3区やけど、東洋大がリードしてるで」
何気にリップサービスの積りで実況解説をしたり顔でした。
嫁は大のマラソンファン。
テレビ実況中継には目が無い。
キッと鋭い視線を感じたが、時既に遅し。
「あんたはええなぁ~。暢気に温かいコーヒーを飲んで、チョコレートを食べて、、、」
「私はこの寒空で溝掃除や」
嫌味タップリで、ねちっこく責めて来た。
ヤバイ雰囲気が充満している。
ここは耐え忍ぶしかない。
余計な事を言うと火に油を注ぐ結果となる事は必定。
黙んまりを決め込んだ。
嫁も暫し口を開かない。
緊張の糸が張り詰め、不気味な静寂が続く。
「お昼食べたら、ハーバーへ買い物に行こか」
椅子から立ち上がった嫁はニコッと笑いながら言い放った。
市中引き回しの刑である。
ここ数年この罪からは逃れていたのであるが、、、
悔しいが、この断罪を受けたからには従うしかない。
家内安全・火の用心である。
箱根駅伝はクライマックスの第5区へと進んでいたが、
後ろ髪を引かれる思いで、ハーバーへと向かった。
そこから4時間はあっちへ行ったり、こっちへ戻りと引きずり回された。
たった一つを買う為の努力には敬服するが、男には全く理解できない神経である。
しかしここが我慢の為所である。
愚痴の一言でも言おうものなら、旧の木阿弥となってしまう。
嵩張る荷物を持ちながら考えた。
嫁が怒るのも尤もである。
嫁の休日は義母のお世話や家事に忙殺される。
嫁も正月の休みくらいはユックリしたいのが本音だろう。
本来溝掃除は男の仕事。
それを放ったらかしにしていた罪は重い。
因果応報である。
正月早々の大反省を心の中で繰り返していた。
これで心の重荷は少々和らいだ。
しかし同時に懐も軽くなってしまった。
奥さんは大のマラソン好きなのですか?
音楽好きとマラソン好きに悪い人はいてまへん。
いつかヒロさんとの三人で一緒に何処かの大会で走りたいです。
今年の神戸マラソンか大阪マラソンの10キロ部門はどうでしょうか?
今年も宜しくお願い致します。
こちらこそ、今年も宜しくお願い致します。