「200 x 5」 |
起き掛けにカウンター下の戸棚を探した。
「どうしたん?何、探してんのん?」
嫁は怪訝な表情を浮かべ、訊ねるが、
「いや、なんでもない」
「大したもんやないねん」
「チョッと思い付いただけや」
然り気なく言葉を躱し、
戸棚の扉を締め、テーブルに腰を掛けた。
朝食後、嫁はパソコンと格闘している。
勉強をしているのではない。
通販サイトを検索しているのである。
昨夜の送別会で同席した人が着ていた服が気掛かりだったらしい。
再び戸棚を探る。
探し物は見つかった。
「Oldies Best Selection 200」という10枚組みのCD集であるのだが、
肝心の歌詞を綴った本が見当たらない。
決して、捨ててはいない。
それは確かである。
真っ赤な背表紙に Oldies Best Selection 200
と太く白抜きされた文字を見た記憶がある。
そんなに前ではない。
嫁に訊ねてもいいのだが、少しの間は秘め事にしたい。
嫁が呼んでいる。
「英語で対称って何?」と訊く。
「シンメトリーや」と答えると、透かさず「非対称は?」と訊ねて来た。
「エイセミトリーや」と英語発音で答えた。
「アシンメトリーじゃないのか、、、」
残念そうな顔をした。
「いいや、それでいいんや」
そう言うや否や、嫁はご機嫌にパソコン画面を指刺しながら、
「これや、いいと思わへん?」
笑顔満面に訴えかけてきた。
謀られた気分となったが、時すでに遅し。
「そやなぁ~」と頷くと、
「アマゾンやねん、得意やろ、注文しといて」
息つく暇もなしのリクエスト。
今更引き下がれはしない。
知ったか振りが身を滅ぼす。
「知らんわ」で済んだ筈だと悔やんだが、後の祭り。
家にはまともなオーディオ装置はない。
CD・ラジカセがあるのみ。
嫁は大きな音が嫌いなので必要最低限の機材だ。
それも仕方がない。
例えいい機材を購入したとしても、音量は出せない。
屋根裏からどれほどの埃や塵が落ちてくるか、想像しただけでもゾッとする。
まぁ、それはいいのだが、件のオールディーズが聴けない。
ラジカセ本体がCDを認識しない。
他の音源は大丈夫であったが、件のものだけが駄目なようだ。
車のオーディオで確かめたところ異常なし。
ラジカセ本体に問題があるようだ。
この期にもう少しマシなものを、、、と画策しているのだが。
これは御内分に。(^x^)
しかし、嫁の勘とは凄いものですなぁ。
CDの事にブツブツ文句を言っていたら、
「忘年会にでも、歌うんか?」鋭く突っ込まれた。
「選曲が難しいなぁ。何分、200曲からやからなぁ。千曲あればなぁ」とボケるが、
何の反応もなかった。
所在なく歌詞集のありかを訊ねると、上の戸棚を見ろと言う。
あった。
しかし、件の真っ赤な歌詞集は分厚い通販カタログの山の下敷きとなり、
息苦しそうに、へしゃがっていた。
まるで、自らを見るが如くの哀れさを漂わせていたのであった。
今、オールディーズをかけている。
全曲がステレオではなく、モノラルも含む故、物足りなさを感じるのは否めない。
が、それでいい。
懐かしさのほうが今は勝っている。
「日の目を見せてやるぞ」
その思いで、歌詞をパソコンに入力している。
しかし、何時。何処で、誰が、如何やって、何に対して「日の目を見せるんだ」
ふと、コーヒーを飲みながら、そう思った。
何をそんなに熱り立っているんだ?
落ち着いたら、本当にそう思った。
まぁ、でもここまで来て、止める訳にはいかん。
せめて五曲に絞ろう。
200曲掛けて5曲、それを選ぶのがまた難しい。
200 x 5 = 何しろ選曲ですから。 m(_ _)m
以前の“金環食(金柑食)”と言い、今日の“200×5≒選曲”と言い・・・
ホンマに・・・
なんのこっちゃ!(*_*)
発音記号で表記できませんが、(ア)と発音するかの違いです。どちらでもいいのです。只、アクセントの置く位置がsyのところです。