「旬の到来」 |
朱を帯びた赤色のボックス。
中央には「CHOCOLAT SESSION」の文字がアール・ヌーヴォー風の蔓で囲まれている。
太くしなやかな白い曲線はトーン記号を思わせる。
今年のデザインはシックだ。
昨年は黒色のキャピタル文字が力強く描かれ、
右下のO の文字の中に果物を突っつくハミング・バード(ハチドリ)が愛らしかった。
詰め合わせも見事。
磨き上げられた一つ一つが誇らしげに収まっている。
これも楽しみの一つ。
この角を曲がれば、事務所のビルに到着する。
その時携帯が鳴った。
「今、ビルの前にいるのですが、シャッターが閉まっています」
製菓会社にお勤めのNさんの声だ。
「手前の信号にいるよ」
手を振り合図を送った。
赤のトレーナーを来たNさんの姿が見えている。
ジャストのタイミングであった。
いつもは土曜日のギターレッスンに来られているのだが、
今日は振替で、その帰りに立ち寄られた。
手土産に大好物のチョコレートを持参されていた。
チョコレートは摂氏15度くらいが美味しいらしい。
それ以上に暖かくなると柔くなり過ぎ、それ以下では固くなり過ぎると言う。
風味も損なう。
チョコレートは年末商戦、そして年明けの2月14日のバレンタイン商戦でピークを迎え、
秋口からが製造の真っ盛りとなる。
この頃によくチョコレートを頂いているのだが、保管には苦労をする。
保管温度には細心の注意を払うのは無論のことだが、
もっと手強い相手がいる事をついつい忘れてしまう。
迂闊に目の届き易い場所に置いておくと手酷い目に会う。
そっと、隠しておこう。
用心に越したことはない。
娘である。
その旦那も甘いもの好きである。
一度根こそぎやられた。
食物の恨みは恐ろしいというが、それは本当だ。
その悔しさは今も忘れはしない。
ワインセラーではないが、チョコレートセラーが欲しい。
勿論ダブルロックのものである。
そうすれば一年中、安心して食べることが出来るというものだ。
ただ、保管庫を手に入れると季節感がなくしてしまうかもしれない。
同じ状態が年中続くのも悪くはないが、考えどころだ。
俺はこの季節に頂く、甘くて苦いチョコレートで、より秋を感じる。
秋刀魚や松茸ばかりがこの季節の旬ではない。
人其々にその季節の旬を感じるものがあってもいい。
それを・・・ “根こそぎ?”
食料品は百歩譲って、しゃ~ないとしても、せめてお菓子の類は半分は残しといてやってよ! 娘さん。
ヒロさん。心の底から同情するぜ!