「虫の声」 |
数日来、朝晩がめっきり涼しい。
長袖のパジャマを引っ張り出し、布団を被って寝ている。
寝汗が少ないのか、夜中トイレに行くようになったが、静かである。
そう言えば虫の声がしない。
虫たちの世界ではまだ残暑が厳しく、
夜な夜な声を張り上げる気力が未だ湧かないのかもしれない。
朝、昼、夜の気温にメリハリが出だした。
秋の到来である。
しかし昼間はエアコンが欠かせない。
南面の事務所は未だ猛烈に暑い。
それでも帰宅時のビル周辺の気温は、月の上旬と比べれば確実に下がっている。
窓を開けて走っていればエアコンなしで十分に快適である。
家に近付くに従い気温は下がる。
峠を超えると急に冷え込む。
家に到着すると寒さを覚える。
それほど劇的に温度差が現れる。
雑草天国の我が家は、虫達にとっては事の他快適な住環境に設えてある。
にも拘らず、何故に未だ声が聞こえて来ないのか。
失礼である。
もし、数日中に鳴かねば、草を刈り取ってしまう。
「虫どもよ 鳴かねば撒くぞ 除草剤」という手もある。
嫁は大の虫嫌い。
コオロギ、鈴虫の類には寛大であるが、ゴキブリやムカデ等には容赦がない。
一度、ムカデに刺されてからは、その姿を見るや「親の仇」とばかりに、
丸めた新聞紙を片手に、
そしてもう片方に一瞬で凍結死させる必殺殺虫スプレーを持ちながら追い掛け回す。
虫さんも気の毒である。
斯く言う小生、至って怖がり。
田舎育ちにしては、昔から虫は苦手な方。
そうかと言って毛嫌いはしない。
心優しい。
危害を加えられぬ限り、自ら襲ったりはしない。
見て見ぬ振りをする。
嫁からの要請にも聞こえぬ体を装う。
精々殺虫スプレーを手渡す程度の協力はする。
専守防衛。
思いやり予算を付ける。
どこかの国と一緒です。
先日娘が「この家、ダニがいるのと違う?」
とブツブツ文句を垂れていた。
「そうでしょう~」
それを聞いた嫁はこれ見よがしに、俺の方を向いて嫌味ったらしく宣う。
俺はダニには噛まれていない。
嫁はあると言う。
平行線を辿っていたのであったが、娘の一言で形勢は一気に傾いた。
それ以来、「バルサン」を買ってくるようにとの、厳しいお達しを受けていたのであるが、
無視を決め込んでいた。
が、そろそろ限界だろう。
虫さんに優しい心は通じないだろうが、せめて俺には噛み付かないで欲しい。
小さいタイプを買って帰ろう。