「川の辺のギターショップ」 |
「木曲げ」
キットに入っているサイドは予め曲げてある。
しかし、自作のモールドに合わせてみると上手く沿わない。
爺さんは横から見ていて「チョッと修正せなあかんな」と
指で俺の肩をチョンチョンと突っつき、円筒形をした金属を指差し
「ベンディング・アイロンという、熱で木を曲げる機械や」と言った。
15cm x 10cm 木製ブロックに長さ17cm x 幅8cm x 最大厚5cm の
涙滴型のアルミ鋳物が突き出している。
これに熱源が組み込まれ、ブロックには温度調節のダイヤルが付いているのだが、
以外にちゃちい感じがした。
よく使われているとみえて、焦げた跡がべったりと着いている。
「こいつを使うにはよ~く熱してやらなあかん」
「水をパット掛けたら弾け飛ぶくらいまで熱くするんや」
「そやないと曲がらん」と言いながら
ベンディング・アイロンを作業台にクランプでしっかりと固定した。
ダイヤルを最大のところまで回した。
ときたま水を掛けて温度の上がるのを待った。
水がシュパッと飛び散るまでには結構な時間が掛かった。
手を傍に近づけると相当な熱っ気が伝わってくる。
爺さんは俺に「キットの木はチョッと置いとき」
「あんたにはまだ無理や」
「曲げてある木を修正するのは結構難儀なんや」と言い放つと同時に
「そや、ここに側板用のローズがある」
「よう見ときや」と傍らのローズ板を持ち、
スプレー式の容器に入った水を吹きかけた。
水が滴り落ちるくらいべっとりと吹いた。
ジュ~ンと水蒸気が上がる。
甘酸っぱいローズの香りが立ち込めた。
俺はこの匂いが大好きだ。
ボ~として目を瞑り、鼻を突き出しウットリとしていると、
「アホっ、ちゃんと手元を見んかい」と叱られた。
見るとやるとでは大違い。
爺さんは力まず簡単そうにやっていたと思っていたが、意外と力が入る。
「無理したら割れるで、ゆっくりとゆっくり、其れが忽や」
「乾いてきたら、水を吹き」と傍から声が飛んでくる。
「先ずはクビレのとこを合すんや」
「そこから肩の方へもって行く」
「モールドに合すんやで、ゆっくりとな」
「それから一番大きなお尻のふくらみへ行くんや」
「確かめながら、ユックリとやで」
「そや・そや、上手に行ってるがな」と俺を煽て、
なだめ賺しながら腕を組み、鋭い目を送ってくる。
つづく