2012年 02月 23日
「川の辺のギターショップ」 |
「始めな分からん」 2
コーヒーを淹れながら、ここで言うのは拙いかな
と弱気虫が支配する自分を叱咤している。
切り出すタイミングを計算していた。
「お待たせしました」とトレーを敷き、コーヒーを置いた。
「そやそや、冷蔵庫に例のロールケーキがあるんや。忘れとったわ」
と爺さんは席を立って奥へ入ってしまった。
心中、何処まで間を外すんやと苛々した。
「お待たせ」と、2切れのケーキを一枚の皿に乗せて運んで来た。
「ありがとうございます」と言うしかない。
爺さんはパイプに新しい葉を詰めながら「何か話しがあるんやろ」と促してくれた。
手を足の上に置き、膝頭を強く握り締め、一気にキットの事を言った。
どうせ駄目元だ。
ジッと見据えられた。
怖かった。
「このアホ!」の罵声と共にパイプが飛んで来るかもしれないと覚悟した。
意外だった。
大きな笑い声と共に「ブラボー、ブラボー」と手を叩いて喜んでいる。
俺にはさっぱり解らない。
「それでよい、それでよい」
「やっと、動き出したな」
と言いながらソファーから立ち上がり、熊歩きを始めた。
いつもの様に手を後ろで組み、パイプを銜えたまま、のっしのっしと歩き回っている。
「自分で答えを見つけなあかん」
「わしが一から十まで指示したら、あんたの頭の中には何にも残らん」
「答えいうものは正解・不正解とは違う」
「あんたの出したキットと云う答えはそれで良しや」
「そこから始めるんや」
「何でも始めな分からん」。
そう言った後、「楽しみや」「楽しみや」と目を細め、消えたパイプの火を付け直した。
顔をしかめ「火の付け直しはあかんな」
「不味なる」
とぶつぶつ文句を言いながら椅子に座り、パイプの掃除に夢中になっている。
今になって老人が言おうとした意味が解かった。
老人の家にはギター製作の工房がある。
其処には腕利きの職人さんがいる。
しかし、俺はまだ出入りは許されていなかった。
と云うより行った事がなかった。
企業秘密があるのかもしれないと思っていたが、そうではなかった。
もし最初から工房へ行っていたら木工技術を学んだだけであったであろう。
俺が老人から学んだ事は考える大切さだったと理解している。
未だ道遠しだが、少しは近づけたかなと自負している。
by hirosanguitars
| 2012-02-23 13:38
| 連載「川の辺のギターショップ」
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Comments(2)
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by
もーりす君
at 2012-02-24 03:10
x
キットを使うとキット上手くいく。
と、先に言っておこう(笑)
と、先に言っておこう(笑)
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hirosanguitars at 2012-02-24 09:24
先にやられた。