「震災」 3 |
苛立たしい。
気を紛らわせるために
テレビのスイッチを入れた。
地下鉄名谷ー板宿間の部分開通を報じていた。
善は急げ、嫁と二人で行くと決めた。
名谷駅までは車。駐車場は開放されていた。
板宿駅に着き、地上口へ上がった瞬間、
焼け焦げたにおいが漂っていた。
あちこちでビルが壊れ、家が倒れていた。
言葉も出ない。
歩いて神戸駅まで行こうとした。
その時、「神戸駅行きの臨時バスがまもなく発車します」
アナウンスが聞こえた。
飛び乗った。
バスは駒ヶ林経由で向かって行く。
一面焼け野原。
臭いはそこからだった。
多くの人が亡くなられている。
思わず手を合わせた。
いま自分たちが取っている行為に対して、
うしろめたさを感じた。
ビルの前に来た。
南面を見上げた。
嘘だと思いたかった。
給水塔は窓をしっかり突き破っていた。
それ以外に、ビルの外見上の損傷はなかった。
正直、「何で俺だけ!」と思った。
仕方が無い。
比べてはいけないと思うが、
バスの中から見た光景を思うと、
自分はラッキーだと思うしかない。
ビルの中に入った。
エレベータは壊れていた。
7階まで歩いて上がった。
息が切れた。
ドアの前に来て深呼吸をした。
鍵を差し込む。
カチッと開いた。
ノブを回す。
開かない?
少々押してもびくともしなかった。
何度も体をぶつけた。
20cmくらい開いた。
これ以上は開かない。
腹が邪魔をして入れない。
嫁さんはギリギリ入れた。
室内のものが散乱し、
ドアを遮っていたようだ。
やっと入れた。
目の前にある光景を見た瞬間、
呆然として暫くは動けなかった。
茫然自失とはこの事だ。
「見てても仕方が無い、さっさと片付けよう!」と嫁さんがいった。
ハッと、我に返った。
女は強いと思った。
今ではよりそう思う。
つづく
西宮は神戸に比べて、火災は少なかったようですが、ガスの匂いが辺りに充満していて、いつ爆発してもおかしくないような状況で、今考えても鳥肌が立ちます。
叔母さんは、揺れが止まってすぐに掃除機をかけだしたそうです。
掃除してもすぐに散らかるような揺れを繰り返していたのに。
日常を取り戻そうとするのは女性の方が強いのでしょうかね。