「ラジコン騒動記」 3 |
因果応報、機体は墜落・大破。
それを反省し、田んぼで飛ばした。
しかし、コントロール不能となった。
幸運にも、すんでのところで難は免れた。
冷静に考えれば、ノーコン対策を講じなければならない。
分かっちゃいるけど、どうにも出来ない。
高性能送受信機を買うお金がない。
飛ばす事で精一杯。
町から東・北辺りにゴルフ場を造成しているらしい。
新情報を得た。
既に営業をしているゴルフ場は駄目。
それは経験した。
造成中であれば問題なしと勝手に思った。
新しい機体を製作している。
是非とも、理想の環境で飛ばしたい。
それも冬休み中に飛ばしたい。
「飛ばしたい病」に掛かると、もう駄目。
ノーコン対策などはそっちのけ。
製作を急いだ。
「千狩カンツリークラブ」を目指した。
7~8キロはあったと思う。
寒い冬の朝、飛行機と整備箱を持って、テクテク歩いた。
何の苦も感じなかった。
早く飛ばしたいの一心だった。
今から思えば、無茶苦茶・無鉄砲でした。
弁当の用意もなし。
飲み物もなし。
近所にコンビニがある訳がない。
それでも、ひたすら「飛ばしたい」を思い続けてひたすら歩いた。
目的地が何処にあるのかも知らない。
ただ、恐らくあの方角だろうと思って歩いた。
千狩の水源地は僕たちの遊び場だった。
だから土地勘がある。
水源地の傍にあるのだろうとの予測は付いていた。
禿山のような感じだった。
芝生が生えているのかどうかも分からなかった。
平らで、周りは広々として、遮るものは何もない。
主翼と胴体をゴムひもでしっかりと固定する。
新作は、「サンダーバードJr.」というかっこいい低翼機だ。
濃いブルーに赤と白のライン。
エンジンを始動した。
ブーンとうなり声を上げる。
ニードルを絞る。
ビーンとフル回転の音に変わる。
今回は手投げではなく、ランニングをさせて離陸させようと決めた。
機体は軽やかに走り出した。
かなりのスピードになった。
「アレッ?」、浮き上がらない。
ただ、走るだけ。
エンジンを再点検。
どうもパワー不足のようだ。
機体も少々重たすぎたのかもしれない。
何回も試みたが離陸しない。
時計を見ると、午後3時。
時間を知ると猛烈な空腹感が襲って来る。
寒い。
風が冷たく感じ出した。
腹が減り、寒く、焦り出した。
空に舞い上がった機体を夢想した。
「風に向かって突っ込ませよう」。
コースの果ては崖だ。
全速力で崖を飛び立てば、必ず飛ぶと信じた。
まるで、特攻隊だ。
状況が切羽詰ると、高校生も大人も一緒だ。
エンジンはフルパワー。
滑走距離はタップリある。
走りに走らせた。
ピョンピヨンとバウンドしながらダイブした。
浮き上がって来る機体を待った。
エンジン音も聞こえない。
シーンとした静寂。
墜落したようだ。
確かめる気もしなかった。
下へ降りてゆく気力も失せていた。
腹が減った。
咽喉が渇く。
「おーい、お前ら、そこで何をしているっ!」、。
時計を見た。
午後4時を少し過ぎていた。
日が暮れかかっていたのも忘れていた。
こっ酷く叱られた。
無断で入ることが何故いけないのか。
現場で仕事をする人の立場。
現場を預かる人の立場。
一つ一つ諭された。
「君たち何処から来たの?」、
「三田からです」、
「歩いてか?」、
「はい」。
「こっちへお出で。車で送ってあげるよ」。
車の中では、笑顔でラジコンのことを訊いていた。
さっきの厳しい顔とは一変して、優しい笑顔だった。
駅前で降りた。
「ありがとうございました」の言葉と、
「勉強しろよ!」の声がぶつかり合った。
日焼けした手が、窓の隙間で揺れた。
ジーゼルエンジンの黒い煙を残し、
ジープは走り去った。
「ラジコン騒動記」 おわり
墜落した飛行機
少年の夢の世界が語られてファンタジックな気分になりましたぁ~
私が親なら、シバキ倒してますよ(笑)
でも、その頃と今では社会が変わってしまってますよね。
先日、甥っ子が線路内で遊んでいて補導されたのですが、義兄曰く「線路内は遊び場やった」
昔は、子供にも自己責任を持たせていたように思います。
かく言う私も、言い聞かせるより目くじらたてて怒るタイプの大人になってしまっています。
どちらが良いのか悪いのか・・・時代に適応していると思っておきましょう・・・