「人生いろいろ」 |
チョコをほいと口に放り込むとあら不思議、嘘のように次から次へとネタが飛び出し、
勝手にパソコンのキーボードを叩いている。
チョコレートには魔法の力があるみたいだ。
そんな寝言のような事を考えながら、背凭れをゆっくりと起こし、背筋伸ばし体操をする。
これも血の巡りをよくするとの考えからであるが、何事もない。
とは言え、肩凝りは緩和されたようである。
「あっ、そうだ!」
嫁からのコンビニでの振込依頼を思い出した。
多少、血の巡りがよくなったようである。
背筋伸ばし体操の効果はあるとみた。
振込用紙とお金を入れた袋を手に持ち、セブン・イレブンに向かい、
「・・・ン~ス」「・・・ン~ス」 の連発を聞きながら振込を終え、店を出た。
数歩歩いた後で、コーヒーを買うのを忘れたことに気付いたが、戻るのも面倒である。
事務所に戻り、コーヒーを淹れた。
そして、チョコを一個口に放り込んだが、ネタ一つ出て来ない。
ヤッパリ奇跡は起らなかった。
電話が鳴った。
T君からだ。
近くに来たので、立ち寄りたいとの事。
大分ご無沙汰である。
暫くして、ドアが開き、静かに入って来た。
元気そうに見えたが、目元に翳りが窺がえる。
相談事がある様子だ。
仕事先での人間関係で悩みを抱えているそうで、心療内科に掛かっているらしい。
彼も43歳だ。
厄も終わり、心機一転、独立しようかとの思いでの相談事だった。
背中を押した。
無責任からではない。
人にとっては精神と身体が一番大切である。
只、独立自営も大変なことである。
しかし彼には技術がある。
そして人柄が素晴らしい。
やり直しも利く年齢でもある。
夫婦で同じ方向を向けるのであれば、やればいい。
お金なんぞは、暮らす分があればそれで充分である。
そう言って、エレベーターに乗る彼を見送った。
背凭れを倒し、暫し先程までのT君との会話を思い出していたのだが、
実は彼を励ましているつもりでいたが、実は俺自身を励ましていたのかもしれない。
目を閉じて、あの頃の自分を思い出すと、そんな気がしてならない。