「昨日の今日」 |
今朝の目覚めは劇的だった。
目を開けると周りがやけに眩しいばかりに輝いている。
体も軽い。
こんな目覚めは、久し振りどころか、今迄感じた事がなくらいの爽やかさである。
枕元の目覚ましはとっくに午前8時を回っていた。
急ぎ台所に向かい嫁の姿を探すが、その姿は既にない。
そして連ドラの最終回も見落としてしまった。
今までにも酒を抜く機会は度々あったが、これほど寝入ったことは一度もない。
正直、昨夜は飲みたかった。
我巨人軍が優勝を決めた日である。
祝杯にビールの一缶くらいと思ったのだが、体が拒否り、飲む気が起らなかったのである。
歳を取るというのはこういう事なんだろうとつくづくそう思った次第だ。
食事が終り、早々に寝床に入るが、一向に眠気は催さない。
仰向けのまま、その姿勢で手を伸ばし、本を弄った。
今夜の友は指が最初に触れた本であると決めている。
土曜日の午前9時半から浜村さんの映画コーナーがある。
話題の映画のあらすじを紹介するコーナーであるが、浜村さんの名調子を聴いていると、
興味をそそられるのと同時に、
何だか映画を見てしまったような気になってしまうのだから不思議である。
お陰で映画から遠ざかってしまい、損をしたのか得をしたのか分からない。
今日は10月4日公開予定の葉室 麟 原作 「蜩ノ記」 を紹介していた。
前々から気になっていた小説である。
聴き漏らすまいと、シェバーの音に負けぬ様にラジオの音量を上げて聴き入った。
派手さはないが、凛とした武士の姿を描いた時代劇のようである。
藤沢周平の世界を思い起こした。
読んでみたい作品である。
午後2時には京都のN君が来る約束だ。
彼はマンドリン弾きである。
約30年前に買った彼愛用のフィールズ・マンドリンの修理依頼である。
ドイツ材を使ったスーパー・スペシャル・モデルだ。
今見ても美しい姿をしている。
音も素晴らしく仕上がっていた。
テイル部分をぶつけた様で、欠けてしまっていた。
それとフレット交換である。
彼は笑顔を絶やず、何時もニコニコしていた。
そのような記憶が鮮明に残っていたが、それは間違いではなかった。
ドアが開いた瞬間鮮やかに当時の面影が蘇って来た。
少し、細っそりとしていたが、話し方やニコニコ笑顔は少しも変わっていない。
今は転勤でハーバーランドの事務所に居るとの事で、京都の家から通っているそうだ。
先程地下街にある本屋さんに向かい、「蜩ノ記」(祥伝社文庫)を買って来て、
今夜の楽しみを一つ増やした。
無論、一番は我巨人軍優勝の祝杯である。
しかし、昨日の今日である。
程々にしようと思っている。