「Blackbird Leys にて」 1 |
オックスフォード郊外にあるブラックバードリーズという町に住んでいた事がある。
この町の主な住人はブリティッシュレイランドという
自動車メーカーのCowley工場で働く工員さん達だった。
1970年当初、イギリスの自動車産業は不況の真っ只中。
操業短縮や一時解雇といった所謂レイ・オフの嵐が吹き荒れていた。
下宿先として指定された家が件のBlackbird Leysにあった。
確か、シティーセンターからバスで20分程度だったと記憶するが定かではない。
メモに書かれた住所を尋ねると、
小ざっぱりとした新興住宅街の中にある棟割長屋風の建物。
その一角が下宿先であった。
長女ニコラ8歳、次女ハイリー6歳、そして長男ギャリー5歳
という3人の子供を持つ若夫婦が住んでいた。
亭主の名はマルコム。
嫁さんはユニス。
気さくな連中であった。
マルコムは自動車工場で働いていたが、レイ・オフの連続で収入は不安定。
ユニスはパートの看護婦さん。
彼等は週給である。
貯蓄など出来る筈もない。
その日暮らしに近い状態であった。
だから、英語を学びに来る外国人のホームステイ先となり、
その下宿賃が重要な収入源となる訳である。
それでも家計は苦しく、火の車であった。
下宿人にとっては下宿先によって天国と地獄の差を味わう事になる。
丁半博打のようなものだが、俺はどちらかと言うと地獄を引いたと言える。
恐らく、人はそう思うに違いない。
でも、物は考えようで大いに違う。
俺の場合は貧乏所帯の家に行かされた。
当然拒否も出来たが、取り敢えず受け入れた。
しかし、後悔しなかったかと言えば嘘になる。
只、その後の俺の人生にとっては最大の収穫であったであろう事は間違いない。
それは英語とかそんな実利的なものではない。
チョッと口幅ったい言い方だが、人の生活というものを徹底的に客観視し得た事であろうか。
つづく