「明日は我が身か、、、」 |
気分爽快!
たった一日の断酒だったが、その効果は絶大だ。
頭痛は勿論だが、眩暈も止み、肩の痛みも嘘のように消えた。
たった一日の断酒でこんなに気分がよくなるのであれば、
今日も明日も明後日もと云う気になるではないか。
一気に寝不足感から開放された。
朝の光の感じ方がまるで昨日と違う。
PM2.5とかの問題でもなそうである。
気分がいいと、少々無理難題にも聞く耳を持つものだ。
俺の今日の予定は役所巡り。
北須磨区役所から三田へ出向くつもりだった。
これでほぼ一日潰れてしまうが、これはこれで仕方がない。
ところが嫁がイレギュラーを持ち込んだ。
今日中に義母の用事を済ませたいと言う。
銀行関係の事らしいから、午後3時までにという制約が先ずある。
それと駐車場の問題もあり、単独行動が非常に難しいそうだ。
という事は俺の予定は変更せざるを得ない。
気分がいいと、即座に折衷案が浮かび上がる。
俺の用事の一つである区役所を先ず済ませ、それから銀行を回ればいいことである。
そう提案した。
異論なしである。
三田へは明日の朝に出向けば半日で済む。
区役所の裏側の道路に車を留め、嫁に待機してもらった。
坂を下ると区役所が入っている建物の入り口がある。
少し前から小雨が振り出した。
石タイルの歩道は滑り易くなるので要注意。
足裏に注意を込め、ゆっくり下って行った。
と、その時 「大丈夫ですか?大丈夫ですか?」
女の人の叫ぶ声が聞こえた。
数メートル先でおばあちゃんが倒れている。
「如何なされましたか?」 と足早に近付いた。
「どうも、滑って転ばれたようです」
件の女の人も動転している。
おばあちゃんを見ると、表情はしっかりしている様子だった。
建物の玄関口にある警備員室へ行き、その旨を伝え、その場を離れた。
区役所での用事を済ませ、玄関口へ行くと、救急車が留まっていた。
後で警備員さんが見守っていた。
「様子はどうですか?」 と訊ねると
「大きな荷物を持っておられて、バランスを崩されたようです」
「お歳も89歳らしいです」
そして、「ご苦労様でした」と礼を述べられた。
律儀な方だと思った。
ただ俺は俺で、その場を立ち去った事への後ろめたさと薄情さを感じていたのだが。
車に戻ると、嫁が 「救急車が来ているで」 と俺に告げた。
「おばあちゃんが転んだらしいねん」 と答えると、
「何で知ってるねん?」 と妙な顔つきをした。
「俺が警備員さんを呼んだんや」 と事の経緯を説明した。
すると嫁は真顔で 「明日はわが身やで、気を付けや!」 と俺の顔をじっと見詰めていた。
そう言えば、介護保険料の払い込み用紙が来ていたのを思い出した。
爽快感は何処かへ行ってしまったようだ。