「それで好い」 |
無性にチョコレートが食べたくなった。
体が甘いものを欲しがっているようだ。
骨揚げの後の初七日の法要も終え、夕方近く母の葬儀は滞りなく終了した。
朝から小雨模様であったが、気温は意外と暖かい。
皆を見送り、一人葬儀会場のロビーで迎えの車を待つ時間が長く、辛く感じる。
早くその場から立ち去りたいのだが、神戸からの迎えである、予定通りには行かない。
こじんまりとした家族葬であった。
それは母が生前から希望していたものであったが、
兄は最後の別れをしに来てくれた方々に対してその無礼を頻りに詫びていた。
兄は兄の立場があるのであろう。
旧市内の町内での付き合いというものは厳然として残っているらしく、
外に出た次男には察しが付かない。
俺はこれで良かったと一人合点していたが、そんな単純なものではないと、
兄の参列者の方々への挨拶の言葉の中に、その意を汲み取った。
事務所へ直行した。
加湿器への給水もあるが、し残した書類整理もある。
パソコンの前に座るが、スイッチを入れる気力が起こらない。
ボォとしている時間の余裕もない。
焦るばかりである。
困った時のコーヒーにチョコレートである。
早速湯を沸かした。
これには一連の流れがある。
俺には俺の作法がある。
冷蔵庫のミネラルウオーターを取り出し、湯沸かし器に注ぎ込む。
スイッチを入れると数分で湯が沸く。
そして再び冷蔵庫よりコーヒーを取り出し、カップに7分目程度入れる。
そこにお湯を入れ、生温くして飲むのである。
俺は猫舌である。
仕上げはチョコを二個口に放り込むのであるが、
今日は特に疲れたので3個にした。
これで何だかいつも通りになった気がした。
どの道、明日からは日常に戻るのであるから、
モードの切り替えは早いほうが良いに決まっている。
お袋もそれで好いと笑ってくれているであろう。