「淡い期待」 |
明け方、屋根を叩きつける雨音に目が覚めた。
昨夜、寝床に着いて、本を読もうとした時くらいから降り始めたようだが、
夜通し降り続いていたのであろうか。
一度目が冴えると中々寝付けない。
まんじりともせず只々時間が過ぎるのを布団の中で待った。
何かを考えていたようだが、思い出せない。
またしても寝不足となった。
天井が軋み、階段から駆け下りる音で覚醒した。
兄ちゃんの早出出勤の恒例行事だ。
帰りが遅く、出が早いとなるとギリギリまで寝たいであろう。
しかし、それが勤め人の宿命でもある。
俺はそれが出来ないから、自営の道を選んだ。
やっと起床する気になったのが午前7時過ぎ。
軒下から差し込む光はか細く弱々しい。
雨は小降りとなっているが、未だ止む気配もなさそうだ。
台所へ行くと、兄ちゃんは既に居ない。
「もう出たんか?」 カウンター向こうで、紅茶を淹れている嫁に訊ねると、
「コーヒーを飲んで、小ちゃなパンを齧りながら出て行ったで」
と然も当たり前のように返事が戻って来た。
「ふ~ん、大変やな」 と小声で呟き、テーブルに着くと、
「人其々やん」
そう言いながら、マグカップを俺の前に置き、傍らの新聞を手に取った。
白い湯気がふぅ~と揺らいだ。
昼前には雨も上がり、薄日が差してきた。
天気予報の通りだ。
事務所へ俺を送った後、娘と孫を乗せ、ホームセンターとベビー用品の店に行く計画らしい。
相変わらず忙しくしている。
孫も首も漸く据わったようで、お出掛けもし易くなったみたいだ。
今日は午後2時から、会計事務所との新会計ソフト導入の打ち合わせ。
これからはネットを通じて遣り取りするらしいが、もう一つピンと来ない。
便利であろうが、パソコンは苦手であり、不安が一杯だ。
兎に角スタートし、慣れるしかない。
あっという間に2時間が過ぎた。
日が暮れるのも早くなったので、どうも今日はスロジョギをする時間はなさそうである。
家でのチョコチョコ走りで誤魔化そう。
走れぬ時はそれでいい。
少しでも体を動かしたほうが好いに決まっているし、酒も旨い。
何より、寝付きも良くなるであろう。
そんな淡い期待もある。